軽井沢風越学園で開催された「学びのかたちをつくる会#01」に参加!
はじめに
皆さまこんにちは!
2023年、福島県大熊町大川原地区に開校予定の大熊町立学び舎ゆめの森を設計するチーム「アーキシップスタジオ・鈴木弘人大熊町教育施設設計業務共同企業体」メンバーの塚本です。
「アーキシップスタジオ・鈴木弘人大熊町教育施設設計業務共同企業体」は、2020年9月にプロポーザルで選定頂き、大熊町と共に議論を進めながら2021年10月までに基本設計・実施設計を完了しました。2023年6月現在学び舎ゆめの森は大熊町大川原地区で建設をしている最中です。
参加のきっかけ
今回2023年5月26日(金)・27日(土)の2日間に渡って軽井沢風越学園で開催された「学びのかたちをつくる会#01」のゲストとして、学び舎ゆめの森の設計メンバーである飯田善彦(アーキシップスタジオ)が分科会に登壇しました。合わせてこれから開校を迎える学び舎ゆめの森にフィードバックすることを目的に渡邉と塚本も今回の会に参加しました。
「学び舎ゆめの森」の設計の始まりのタイミングで訪れていた学校
私たちがプロポーザルに参加した際に、軽井沢風越学園の理事長の本城慎之介氏が審査員の一人として紹介されており、その学園の活動や生活の様子を知った所から学び舎ゆめの森の設計をする際に、学校での生活のイメージや学びのあり方について参考にさせて頂いておりました。
基本設計の序盤に、大熊町役場職員の方や設計チームで見学に行ったのが2020年11月。そこから約1年半後に再訪するきっかけになりました。
当時は学園も開校間もない時期でかつコロナ禍の真っ只中で、教育環境もオンラインを織り交ぜながら試行錯誤していた時期でした。
この見学から約1年半でかなり学び舎ゆめの森の工事も進み、竣工間際のタイミングとなりました。今回改めて教育について考える時間を過ごした事で、これからの学び舎ゆめの森の開校に向けて、より具体的に子どもたちがこれからどのような教育環境を過ごしていくと良いか立ち止まって考えるための素晴らしい時間となりました。
(現場の様子のレポートはぜひ下記の記事からご覧ください!)
イベントの概要
DAY1について
DAY1では、以下の3つのプログラムが行われました。
プログラム①: インストラクション「まわる」
プログラム②: 「まざる」
プログラム③: 「まなぶ」
それぞれについて、体験したことや感じた事をレポートします!
プログラム①: インストラクション「まわる」
「まわる」プログラムでは、学校生活を身近に体験し、学びのあり方や環境について新たな気づきを得ることを目指しています。
子どもたちの喧嘩・協力の光景
午前中の活動時間を見学する中で、森の中で様々な活動をしている子どもたちの光景は、私にとって非常に印象深いものでした。
写真は学校の建物から少し離れた森の中で、子どもたちがよく遊ぶ場所です。最初に訪れた時に目に飛び込んできたのは、数人の子どもたちが大きな穴を掘り(写真左側の土が見えている部分)、一部の子供が喧嘩をし始めたりと普通の授業とは違った様子で驚きました。先生は少し離れた場所から見守っており、子どもたちは話し合いのあと穴掘りを中止して、サッカーをし始めました。
また、近くの別のグループの子供たちはその隣でテントの片付け中で、1泊2日のキャンプが終わった後とのこと。大きなテントを子供たちだけで片付けている様子に驚くと共に、近くで別の活動をしている集団に注意を向けてしまうのではないかと心配しましたが、子供たちは自分たちの興味や関心に集中して、それぞれの活動に取り組んでいました。
学びの多様性と柔軟性の重要性の再認識
「まわる」プログラムで出会った子どもたちの様子は、一見すると授業中には見えない活動でしたが、遊びと学びが混在して自分たちで考えながらそれぞれに時間を過ごしているように見えました。自分の頭がまだまだカチコチだなと思いつつ、風越での学びや過ごし方に自分自身が少しずつ慣れてきている感覚です。
プログラム②: 「まざる」
大人も子供もまざる
プログラム②では、他の参加者と共に8〜9年生の子供たちとの対話を通じて、学校や学び、遊びについて考える時間でした。特に9年生の女子生徒との対話で、進路についての考え方を知ることができました。
9年生の進路と学校生活の悩みを聞く
彼女は高校進学を控えており、学校での過ごし方について悩んでいるようでした。受験勉強と風越での学びの両立に悩みながらも試行錯誤中で、最近は放課後に近くの図書館で受験勉強に取り組んでいるそう。
「高校の校則を変えたい」
また、彼女は高校では校則や決められた時間割で学ぶ事に風越とのギャップを感じるかもしれない事について話してくれました。「納得できない校則があれば変えたい!」そうで、高校でチャレンジしたい事のモチベーションになっていると語っていました。
主体的であることの重要性
風越では子供たちが試行錯誤しながら合意形成を図ってきた経験から、ルールは自分たちで変えられるという考え方が生まれたのだと感じました。
既存のルールを変えるには、まず問いを立てること
ルールは変わらないと諦めるのではなく、まずは「問い」を立てることから始まるのかもしれないなぁと、「まざる」の時間を通して自分自身が気づかされる経験となりました。
プログラム③: 「まなぶ」
グループで参加者同士で「問い」のディスカッション
参加者は持ち寄った問いを通じて、グループ内でディスカッションし、意見交換しました。大学院生や風越学園のライブラリーの司書、滋賀県在住の郵便配達員、地元の中古自動車販売をされている方など、様々なバックグラウンドの人が参加しました。
「信じることの大切さとは何か?」
特に印象的だったのは「信じることの大切さとは何か?」という問いについて、参加者同士で盛り上がったことです。
風越学園での子供たちと先生の関わり方を見て、子供たち自身で問題を解決する事を大切にしていると感じました。また、ライブラリーの司書さんからは、「風越学園の環境の特性上、本がなかなか戻らず紛失することが多い」という悩みも聞き、その際に子供たちに守って欲しいことを伝える為に重要な事として「<信じる>」がキーワードとして浮かび上がりました。具体的には、「<信じる>」がどのような状態を指すのか、<信じる>の主語は誰なのかという問いが生まれました。
たった1時間程度のディスカッションで、お互いの「問い」の共有によって前向きな一体感が生まれて、集中的に考えたり話したりすることの重要性を再認識しました。
DAY2について
2日目はより詳細なディスカッションを行うために分科会として以下の4つのプログラムに分かれました。
分科会3「設計図ボツ案を通して見えてくる教育のかたち」に参加しました!
私自身建築の設計をする上で分科会3「設計図ボツ案を通して見えてくる教育のかたち」のテーマにとても興味がわきました。
学び舎ゆめの森の設計の際にも、沢山の案を検討し採用にならなかった案も実際にありましたが、色々な過程や検討を経て一つの形に決まっていくプロセスはとても重要だと思います。
司会進行を学び舎ゆめの森の設計者である飯田が務めました。
まず導入として、軽井沢風越学園の理事長である本城氏が審査員として参加した学び舎ゆめの森の計画概要や現在の工事状況について説明し、聴講する参加者にこれまでとは違う新しい教育環境を今まさに進行中の建築の実践を交えて紹介しています。
次に本題である軽井沢風越学園での設計プロセスについて話が進みます。
まず学園を設立した背景や、校舎の設計を環境デザイン研究所に依頼した経緯についてお話し頂けました。
本城氏が、楽天の設立から横浜市教育委員会の公募に応募し、最年少の公立学校校長としての経験を積んだ後、軽井沢で保育士としての経験を経て、2020年に軽井沢風越学園を開校した経緯が紹介されました。
そして、軽井沢風越学園を設計した建築家である仙田満氏との出会いは、本城氏が仙田氏の著書「子どもとあそび(岩波新書)」を読んだことから、設計を依頼することを決めたそう。
設計の初期段階のやり取りが明かされた事から、次に具体的な設計案を見ながら設計のプロセスについて伺います。
数多くの設計案を比較検討しながら最終的な設計案に至るまでのプロセスが検証され、設計者がどのようなイメージを持ち、学園の教育のかたちを作るのか、そのプロセスを詳しく学びました。
当初は教育のイメージが手探り状態で、学校での過ごし方の具体的なイメージはなく本城氏や仙田氏・宇佐美氏との間で対話を重ねながら、形にしていったそうです。
「情景」と呼ばれる文章には、本城氏や岩瀬氏(学園の校長)の頭の中で思い浮かぶ様々なシーンの様子が記されていました。それを元に仙田氏が建築のイメージのスケッチを描き、より具体的な設計案が生まれたそうです。
この分科会の参加者の中には、現在長野県内の公立高校の設計を担当されている建築家の方がいたり、まさに今探り探りの中で 教育環境の検討を進めているそうで疑問に思うところや、設計を進める中での苦労する点についてディスカッションが交わされました。
この話を聞いていくうちに、学び舎ゆめの森の設計を進めていくプロセスに通ずる部分があると感じました。 今までの画一的な教育の環境や、学校とは異なる建築を考えるときに、学校を運営する先生と設計者と同じ視点に立って対話を重ね、共に考えるプロセスはとても大切なことだと思いました。
また今まさにこれまでと異なる教育環境を作ろうと奮闘する教育関係者や建築家が集まり、様々な質問が飛び交う熱い分科会になりました。
学びのかたちをつくる会を振り返る
最後に全体会として、「学びが生まれる時、そこにはどんな環境や働きかけがあるか?〜学校がマチやモリになったらどうなる?〜」というテーマについて考える時間が設けられました。
私自身、会に参加する中で「偶然性」や「非効率性」が学びの中でとても重要なキーワードだと感じました。年齢が違う子ども同士が一緒に学び、生活をすることは相手を尊重するために、少し立ち止まる時間=非効率な部分が必要だったりします。
そのことを風越学園の子どもたちは、日々の学びの中から自然と時間をかけて身につけているのではないかと思いました。
子どもだけではなく、大人である自分自身も気づかなかった学びや生き方を気づかせてくれる会になったと思います。
今回の軽井沢風越学園でのプログラムをきっかけに、学校の教育環境についてディスカッションする機会が今後さらに増えていけば嬉しいです。
学び舎ゆめの森ももうすぐで竣工を迎えるタイミングなので、これからの子どもたちの学びの環境がどのように変化していくのかとても楽しみです。
学び舎ゆめの森の開校について関心を寄せて下さる方々との出会い
また今回参加して大変驚いた事の一つに、他の参加者の方で学び舎ゆめの森について興味や関心を寄せて下さっている建築家の方や教育関係者などが非常に多かった事です。設計のプロセスを建築雑誌に掲載頂いた事や、先生方や設計者が更新するnote・ホームページでの発信によって知って頂けているのであればとても嬉しいです。
全国各地で今まさに新しい学校建築の建設が進んでいて、それぞれに設計を担当する建築家が日々試行錯誤をしている事を肌身で感じました。
また学び舎ゆめの森が開校する際には是非現地を見にいきたいというお声も沢山頂きましたので、竣工までもう少し楽しみに待って頂けると嬉しいです。