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『幼保小中の子どもたちが混(交)ざりあう学校ってどんな状況?』 ~軽井沢風越学園見学の振り返り~

皆さまこんにちは。2023年春、開校予定の大熊町立学び舎ゆめの森を設計するチーム「飯田善彦・鈴木弘人大熊町教育施設設計業務共同企業体」メンバーの塚本です。
私たち設計者は、2020年9月にプロポーザルで選定頂き、大熊町と共に議論を進めながら2021年10月までに基本設計・実施設計を完了しました。2021年12月現在学び舎ゆめの森の建設に向けて、年明けからの工事着工を予定しています。

今回の記事は、プロポーザル選定後の2021年11月中旬に、大熊町役場職員と設計者、基本計画策定者の教育環境研究所のメンバーで参加した、軽井沢風越学園の学校案内・研修の振り返りレポートです!

「幼保小中が”混(交)ざりあう”とはどんな状況なのか?」

設計メンバーが当初から具体的にイメージ出来ていなかった「”混(交)ざりあう”とはどんな状況なのか?」という所を実際に見るべく風越学園を見学する事になりました。
私たちは、プロポーザルに参加する初期段階で要綱(※1)の特定テーマの中にある、「混在と多様性」というテーマがとても重要だと考えていました。
(※1)大熊町教育施設整備事業基本設計・実施設計業務委託公募型プロポーザル実施要領を指す

混在と多様性
温故創新の理念のもと、未来を切り拓いていく子ども、先人に学び文化を紡ぐ学校を目指しています。そのためには、教科センター方式の考えを活かしながらも、「混在と多様性」を理解した新しい学校施設が必要です。柔軟かつ大胆な提案を求めます。
【混在とは】
多世代が混在する(乳児、幼児、児童、生徒に加え、教職員、地域の方々、大熊を応援する様々な方々が混ざって一緒に遊んだり、学んだり、活動したりする空間)
・発達段階に応じた活動場所が混在する
・アナログとデジタルが混在する(実物に触れる、直接体験する、文字や映像として理解する、仮想的に体験する、遠隔での交流など)
【多様性とは】
・年齢、所属や立場を超えて多様な人と出会う
・多様な空間と出会う(一人で静かに学びに没頭できる場所、みんなで語り合える場所、読書にふける場所、お気に入りの場所、心が落ち着く穏やかな場所、やる気がみなぎる場所など)
・多様な学びと出会う(個別最適化された学び、グループ学習、探求的な学びなど)

<大熊町教育施設整備事業基本設計・実施設計業務委託公募型プロポーザル実施要領>から抜粋


私たちは、プロポーザルで検討を進める中で「混在と多様性」のテーマに対して参考例となると考えた、風越学園のかぜのーと(※2)や、かぜシネマを見ながらチーム内で議論を進めていました。
(※2)軽井沢風越学園のブログページ。

プロポーザルで選定頂き、いよいよ設計に入っていく段階で、やはりこの「混在と多様性」からイメージする学校の教育環境の参考例を実際にこの目で見た上で、これからの設計に反映させていく必要があると考えていました。

風越学園の見学を通じてあなたが深めたい”問い”はなんですか?

風越学園からは、見学前に「問い」を立てること、そして見学後に問いに対する自分なりの「気づき」を記すという課題を出されました。まずは「問い」の内容をご紹介します。

幼、小、中の交じり方と分かれ方
・図書スペース、ラボスペース、体育館の役割と重要性
・カリキュラムと空間、個々の領域間の関係性
・先生の役割と居場所
・PTA あるいは地域住民との関係
・開園までの準備期間ですべきこと
・広報、発信の方法と重要性

設計者のコメント

大熊町で整備する新しい教育施設は、幼保・小中学校が一体であり、少人数で開校予定である。また図書室、体育館などのエリアは地域住民への積極的な施設開放も検討されるなど、今までのアーキタイプによらない学校建築を目指している。新しい時代の複合施設と言ってもいい今回の建築をつくる設計を通して、自分自身の建築職としての知識に捕らわれず、「これからの学校建築とは何か。」を再考していきたい。「学校ってどういう場所?」、「教室って何?(もはや「教室」という概念が存在しない?)」という問いに対して、建築の構成要素(床、壁、柱、窓、家具等)のあり方を見直すことにもなるだろうか。その結果として建築的にできることは何か。さらにどのような建築空間が生まれるのか。見学を通して考えたい。

大熊町役場職員のコメント

3 歳~ 15 歳までの 13 年間子どもが通い続け、一つ屋根の下で生活を共にする教育施設とはどのような施設なのか、また、その各成長過程に合わせた教育環境の在り方、さらに子どもの遊び場・居場所・交流の場所といった生徒の生活を補完する場所つくられ方を実際にみたい。
建物としてのヴォリューム、空間の広さ、天井や建具高さ、家具スケール感など、幼小中の一貫校としての各スケールや寸法のあり方を体感したいと考えている。

設計者のコメント

子どもたちが普段どこで、誰と、どのように過ごしているかを観察したい。自身が経験した教育との差異や違和感を感じる事ができたら、教育に対する既成概念を変えるのではないかと期待している。
また教員側の視点や、一般の利用(地域利用を考慮)がある場合のセキュリティ管理が気になっている。子ども達が自由でのびのびと生活が送れる一方で管理の仕方や一般利用者が入った場合の空間の共有方法を確認したい。壁や仕切りを明確に作るのではなく、町の人たちに見守られながら安心・安全を確保すると考えた際に、どこまで開けるのかは懸念事項だと思う。

設計者のコメント

驚きと発見がいっぱいの学びの環境!


実際に風越学園を見学して、それぞれの問いに対して参考になった所を写真をお見せしながらご紹介します。

〇「多様な空間と出会う」~子供たちが自分で学校を作っていける余白がある~

学びたいことを自分で考えたり、場所の使い方のルールを子供達自身で決めて使っている様子を発見しました。多様な空間や学校の作り手は、教育委員会や設計者、先生だけではなく子どもたちも含めてみんなでやっていく事が大切なのだなと学びました。
今回設計を進めていく中で、大熊町教育委員会との対話の中でもキーワードとして出てきた「自分で学びをデザインする」事の参考例にもなる取り組みでした。

子供も先生も学校づくりをしている様子が伝わります

〇やる気のみなぎる場所

また「多様な空間と出会う」のなかにあった例として「やる気のみなぎる場所」という項目がありました。
”なにかをつくる”ことのやる気がみなぎる時って、道具やものの置き場所が決まっていて、いつでもそこにいけば何かを始められる、そんな場所だなぁと個人的に思います。

材料と道具を置いているスペース。ゆめの森の中にもメーカーズルームと呼ばれる共有の道具を置いて作業するスペースがあります。

〇「デジタルとアナログ/多様な学び・体験・文化と出会う」~遊びや学びを展示する~

校舎の外で見つけたものを、持ち帰って本やデジタル機器を使って調べている姿が印象的でした。またそれぞれの探求の過程を展示する場所がたくさんあり、ゆめの森でも展示する為の場所を用意する事が大事なのではないかと気付かされました。

一人の学びが、みんなの学びとなって開かれています。
校舎周辺に落ちていた鹿の角や、蚕が理科室に展示されていました。ゆめの森にもサイエンスラボと呼ばれる実験スペースがあり、実験や観察途中のものを展示するサイエンスギャラリーを設けています。

〇「多様な空間と出会う」~狭い場所や暗い場所、裏側のような場所がある~

1人になりたい時や集中したい時に使いたくなる場所が沢山ありました。子供だけでなく、先生にとっても一人になれる場所は大切だそうです。ゆめの森でも参考にしています。

階段裏の小部屋。
遊具のような小さな建築


〇「多世代が混在する」~職員室がフリーアドレス~

先生方の専用の机椅子が無いのが特徴で、オフィスのワークスペースのような空間でした。異学年での学びを実現するには、先生同士の連携やコミュニケーションが重要で、勝手に混ざっていくわけではないのだと伺いました。ゆめの森の教職員スペースの配置も、先生方が色々な机の配置ができるように検討を重ね、生徒や先生両者にとってオープンな作りを目指しています。

玄関の真横に職員室が開かれています。
子どもたちがいつでも先生に声を掛けられるような設え

その他にも見学の中で異学年での交流の様子は、じっくり観察することができました。より詳細を知りたい方は、かぜシネマを見るのがおすすめです!

https://vimeo.com/user117697388


「学校案内と研修」に参加して、あなたが考えたことはなんですか?

見学を終えての私たちの「気づき」を紹介します。

至れり尽くせりで全部を造りこむのではなく、使い手である子どもたちの想像力・創造力を信じることが大切であり、内部と外部、部屋と部屋の配置の関係性であったり、その空間の質を考えることがより重要だと感じた。その方が施設を使い始めた後、空間の使い方の自由度が増し、変化に対応していけることが分かった。

大熊町役場職員のコメント

町村レベルの公立学校における、個別最適な学びの可能性と、学校と教育委員会、自治体との意識合わせの必要性について考えさせられました。

大熊町役場職員のコメント

百聞は一見にしかず、子どもたちの生き生きした姿に教育環境の充実を確信しました。ほとんどワンルームといえる施設の広々とした有り様がまさしく教育理念を補完している、理念を実体化していることがよくわかります。これから設計する立場としてとても大きな力をもらいました。

設計者のコメント

最初に学園に来たときに、印象的だったのは建物の前の広場でテントを立てて子どもたちが遊んでいる様子とその背後で森の中からあちこちから子どもたちの声が聞こえてきたことです。浅間山が、目の前にあってその麓で子どもが自由に動き回っている光景に驚きました。大人も子どもも混ざりながら学んでいる様子を実際に見ることができ、とても良かったです。異学年で算数を勉強している教室では、小学 6 年と 3 年の子が一緒に隣り合って問題を解いていたり、テストの問題を解きながら隣の子と話し合っていたり、教室の隅っこで黙々と問題を解いている子がいたり混ざり合って学んでいる様子がより解像度高く体験できました。子供たちの各々の進度や興味関心に向き合って先生方が対話している様子も見れました。一見すると誰が先生なのか判別がつかないくらい同じ目線に立って学びに並走している様子が印象的でした。気になるのは、それぞれの興味関心や学習深度にあわせることによって得意なことと不得意なことに差が開きすぎてしまって問題がないのか?という点です。またクラスや人間関係が流動的になりそうなので、心地よい人とだけ一緒にいることができてしまうという所も気になります。

設計者のコメント

風越学園の見学から1年経って

今は風越学園の見学から1年経って既に基本設計・実施設計が終わっています。最初の頃はまだ学び舎ゆめの森の設計も形が定まっておらず、なんとなく理想的な学びの場のイメージを持っていましたが、まだまだふわふわしていた時でした。

風越学園と学び舎ゆめの森は制度的にも異なる部分が多いですが、学校の生活や建築、学びの様子、広報の仕方など参考になるところが多いです。

このnoteも教育現場の試行錯誤が伝わるよう、かぜのーとのような媒体になっていけたらいいなと思っています。