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【取材#05】理想の社会のモデル「学び舎 ゆめの森」(南郷 市兵)

認定こども園と義務教育学校が一体となり、0〜15歳のシームレスな学びを目指す「学び舎 ゆめの森」。それは、公教育においてどのような意味があるのか。日本社会でどのような使命を果たすのか。南郷市兵GM(校長・園長)にお話をお聞きしました。

※「学び舎 ゆめの森」では校長・園長を「GM」と呼んでいます。

プロフィール

南郷市兵GM(校長・園長)
IT企業勤務の後、文部科学省入省。東日本大震災後の教育復興担当として、岩手・宮城・福島での創造的な復興教育を推進。双葉郡の教育復興に向け、双葉郡8町村とともに「教育復興ビジョン」を策定し、2015年に福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校(広野町)を設立。創設から8年間、副校長として立ち上げを担当。同時に全国の教育内容の方向性を議論する中央教育審議会委員も務め学習指導要領改訂にも携わる。
2023年より、学び舎ゆめの森の義務教育学校・認定こども園の校長・園長に着任。

学ぶ意味を見出した、原体験。

―教育に携わる原点を聞かせてください。
 
もともと、小学校・中学校と、教室での勉強にはあまり意味を感じられず、好きではなかったんです。
高校は自由な校風のところに入って。高1の時に阪神淡路大震災が起き、一人でボランティアに行ったんです。災害の現場に高1の自分が一人で行ったところで何の役にも立てなかったですが、その時の経験から「何のために生きるのか」というのを考え始めたような気がします。生まれたからには、世のため、人のために生きたい、と。
それで、高校では社会課題を研究しはじめて。原発の研究もしました。『原発 日本のエネルギー政策を問う』というタイトルの論文を書いて。1996年のことでした。当時全国初の住民投票が新潟であり、原発建設の是非の議論が報道されていました。教科書の中の問題ではなく、それはリアルな自分たちとも関係のある問題だったんです。
実社会とつながった時にはじめて、学ぶ意味を見出せた。私自身の原体験だと思います。
「子どもたちを学校に閉じ込めるのではなく、実社会に解き放っていくことが重要だ」、という実感はここからきています。

―文部科学省時代から、教育の仕組みづくりに取り組まれてきました。
 
今までの学校教育って、答えることばかり求めてきたのではないかと。「問う」ということを教えてこなかった。自分の頭で考えるっていうことを封印させられてきたんではないかと思います。
でも今の社会に求められているのは、「問う」力、自分の頭で考える力、当たり前だと思っていることに疑問を持って追求する力です。
 
「探究(たんきゅう)」という言葉を、2017年から学習指導要領で打ち出すとき、私も中央教育審議会の議論に参加をして、日本中の学校を「探究」モードに転換しよう、と取り組みました。目指すべき方向性は明確なんです。でも、言うは易しで、すぐに変えられるものではなく。全国の学校はこれから少しずつ変わっていかなければなりません。ゆめの森はその先陣を切っていく学び舎です。
 

学び舎 ゆめの森が大熊町にある意味

―震災後から、双葉郡8町村とともに「教育復興ビジョン」の策定に取り組まれてきました。この地域の持つ可能性は何ですか。
 
私たちは地震・津波と原発事故という、人類でも稀な超複合災害に直面し、このままの社会、このままの教育ではダメだって痛いほど知っています。復興の道筋も、世界の未来も同じで、これっていう正解はなく、自分たちで考えて創っていくしかないんです。正解のない課題に対し、今までの当たり前に疑問を持ち、どんな社会であるべきなのかという「問い」を立てる。そして他者と「対話」することで自分にない視点を受け入れながら、納得できる解を見出していく。
そういう流れを創るのに向いている地域だし、カタチにしやすい舞台だと思います。
 
教育の仕組みを変え、そのことで社会のあり方を変えていく、という挑戦への必然性がある地域であり、新たな教育や社会の形を創りやすい、やりやすい地域だ、と。
 

「生涯幼稚園児」であることとは

―学び舎ゆめの森の教育の魅力は何ですか。

0歳から15歳のシームレスな学び舎で、超インクルーシブな教育を目指してやっているというところが強みです。
 
イギリスの研究で、4歳児は毎日73の質問をするという話があります。いろんなものに没頭して、遊びの中からいろんな問いを持ち、自分の頭で考えるんです。
幼児はそうやって、自分の「好き」「なぜ?」を追求することを通して自分の世界を獲得したり作ったりしている存在で。だから、あの子たちは日々楽しくて楽しくてしょうがない。ここ数ヶ月、うちの園児たちは虫さんとオタマジャクシに没頭し続けています。
 
だけど通常の学校では、1年生になった途端に、45分間は机と椅子に座って教科書を開かなきゃいけなくなる。幼児の時は内発的な興味や問いを追究する学びだったのが、1年生からは外発的な学習に、ガッと変わってしまう。教室で毎日73個質問したら怒られるでしょう?静かにお行儀良く「答える」ことばかり。そうすると子どもは受動的になっちゃいますよね。
 
ゆめの森で0歳から15歳までシームレスでいられることは、小学校1年生になるときに没頭や探究モードから、受動的なお勉強モードに変わらないでいられるということです。
幼児の興味、関心と問いの力をしっかりと探究の力に伸ばしていって、15歳を迎えられたらなと。それが自分の頭で考える力を育てることにつながるのでは、と。

―ゆめの森に着任される前は、ふたば未来学園中・高を設立し、立ち上げを担当してこられました。

ふたば未来高校学園中・高でやってきたことを振り返ると、毎年入学生を迎えたあとの最初の大仕事は、中高生に、幼児の時にできていたことを思い出させることだったんではないか、と。
興味のあることに没頭する、自分で考えて問いを持って追究する、大きくなってから幼児の頃の感覚を取り戻すには、結構パワーが必要なんですよ。
でもゆめの森ではお勉強モードに入ってから戻すのではなくて、はじめから一貫して伸ばしていけるので、やりやすいはずです。

全国5万校のモデル、日本社会のモデルとなる

―実際のゆめの森を見て、兆しはありますか?
 
一人一人の興味や関心を生かして没頭する学びの環境が実現していますね。
加えて、子どもたちの 対人スキル、対話力が育っています。
9年生の15歳の子は、1歳児を上手に面倒をみていているし、役場の職員など大人と対等に会話をする機会も多いので、大人っぽい対応も難なくできていて。
 
子どもたちがプロジェクトをやるときも、小学生から中学生まで違和感なく一緒に活動しています。中学生が手加減して小学生に合わせるわけでもなく、それぞれの興味関心をしっかり持ちながら、当たり前に混ざりあっている感じで、驚かされます。年齢の差を超えて協働するあたたかさを、子どもたちはもともと持っている
子どもは学年っていう概念がそもそもないんでしょうね。考えてみれば、実社会において、同年齢だけを区切って活動する場面は「学校」にしかない。様々な経験と感性を持つ他者が関わり合い、支え合う姿勢は、とても大切だと思います。
 

佐藤由弘教育長と、新校舎にて


―今後の展望や目指していきたい未来について聞かせてください。
 
ゆめの森から、新しい大熊町を創造していきたいです。
子どもって、地域づくりに貢献できる力があると思ってて。ゆめの森を、子どもたちの活動と地域活性化が共鳴し合うような、地域に開かれた「共創空間」にしていきたい。
 
それには大前提としてやさしいコミュニティであること。年齢の差も関係なく、デザイナーも子どもも、障がいがあってもなくても、一人一人が安心して、安全な場所で発言できる、挑戦できる、互いに尊重され支えてもらえる、そんなやさしい場所を提供して、創造性を育んでいきたい、と。
 
ゆめの森は「やさしく創造性のあふれるインクルーシブな社会」のモデルだと思っています。
ゆめの森が目指す方向性は、社会が目指すべき方向性だと思っているし、ゆめの森は全国5万校の学校・園の教育のモデル、そして未来の理想の社会のモデルを目指していきたいと思っています。
 


 
(取材後記)認定こども園の子どもたちとおオタマジャクシを観察した際、4本の足が生えたおたまじゃくしはカエルなのか?オタマジャクシなのか?で5歳児と本気で議論を交わしたことを、笑いながら話してくれた南郷市兵GM。
今の社会に必要とされている力、日本の教育に対する熱い想いを、ご自身の経験に基づきながら、穏やかな口調で語ってくださいました。

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