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【取材#03】「ノーチャイム」からはじまった“私”の物語(半谷真由香)

認定こども園と義務教育学校が一体となり、0〜15歳のシームレスな学びを目指す「学び舎 ゆめの森」。2023年4月の開校と同時に赴任した半谷真由香デザイナーは、ゆめの森の教育方針・コンセプトにはじめは戸惑ったといいます。開校から3ヶ月が過ぎ、子どもたちと触れあう中でどのような気づきがあったのか、お話をお聞きしました。

※「学び舎 ゆめの森」では小学校教諭を「デザイナー」と呼んでいます。

プロフィール

半谷真由香デザイナー
南相馬市出身。母の実家がある大熊町で東日本大震災を経験する。震災の影響で福島県の教員採用試験はなく、唯一被災者対象の教員採用特別枠があった奈良県で小学校教師となった。奈良県での教員生活11年を経て、大好きな地元に戻りたいという思いから、福島県の教員採用試験を受け直し「学び舎 ゆめの森」のデザイナー職に就く。前期課程を担当し、主に3年生の担任。

「チャイムで着席」の常識が覆されて

―赴任した当初、ゆめの森の教育方針をどう思いましたか?

以前は奈良県の小学校で、12年教えてきました。小規模校や中規模校など児童の人数もまちまちでしたが、校庭で「前へならえ」で並ばせるような、いわゆる普通の小学校でした。だからゆめの森に赴任した当初は、「こうしなきゃいけない」というルールがない、「何をやってもいいよ」という自由度が高すぎる状況に、正直戸惑いました。すぐには理解できず、「もっとルールがないと子どもたちが困るやん!」と、ツンツンしてたと思います。きっと自分が一番困ってたんですよね(笑)
それまでは「チャイムで着席」が当然だったのに、ゆめの森はノーチャイムなんです。
でも、よく考えてみると「チャイムで座る意味ってそもそも何?」「誰のためのチャイムだったんだろう?」と、常識が覆されていきました。

―戸惑いながらのスタートだったんですね。現在はどのようなお気持ちですか?

約3ヶ月実際に子どもたちと触れ合ってきた中で、「こっち(ゆめの森の方針)の方がいいのかも」という考えに変わってきています。最低限のルールの中、自由だからこそ自分で管理しなければいけない、それって自己マネジメント力につながるのかなって。

今までの教育を否定する訳ではないけれど、増子GM(副校長)に「半谷先生、(ゆめの森での指導が)面白くなってきたべ?」と聞かれたとき、「はい、面白くなってきました!」とすぐに答えていました。

子どもが自ら気づくまで待ちつづける

―ゆめの森だからこその学びはありますか?

ちょうど今日のことなんですけど、1時間目の予定だった算数を3時間目までやってました。3時間目まで私の担当するコマだったので、2、3時間目の予定を変更して、算数の時間を延ばしたんです。

3年生の、「長い長さ」で「50メートルを測ってみよう」という授業。道具はどうするか、どこの長さを測ればいいのか。大人が測り方を教えるのは簡単なんですけど、子どもが考えて気づくのを、待って待って待ちづづけて、気づいたら3時間経ってた感じです。

以前いた学校だったら、測り方を教えて、学習したことがテストの点に反映されて、平均点が上がって、という教育だったと思います。でも、ゆめの森は、子どもたちの気づきを大切にする。高得点を目指すよりも、「わかった!」「ひらめいた!」って、最後に子どもの目がキラキラするゴールがいいなって思います。その瞬間を待つのは、忍耐が要るんですけどね(笑)

―密度の濃い3時間ですね

夢中になっている子どもたちにとっては、3時間も経ったという意識もないんだと思います。授業としては算数ですけど、最後に学んだことを起承転結で言葉にし動画にアウトプットしているので、国語的な活動でもあったり。測った50メートルを実際に走ってみる、体育的な活動でもあったり。教科書通りじゃなく、教科の垣根を超えた学びができるのも面白いです。

「こんなことをしたい」が言える場所

―子どもたちとの接し方で意識していることはありますか?

子どもと同じ目線に立てるか、って重要だなと。たとえば子どもが「先生見て、バッタ。」とバッタを手に乗せて見せてきたとき、大人は何て言ってあげられるか。どうしてこの子は「バッタを見て」って言ったんだろう?って考える。 以前は虫を怖がっていた子なら「バッタを触れるようになったんだ」と声をかけたり。あるいはバッタの色に着目して「今日は緑色の服を着てるね」とか。子どもの考えや世界を広げられるような声がけができたら、と思いながら対話しています。

あとは、現在担任している3年生は2人ですが、それぞれの性格に応じて、声のかけ方を変えています。私と子ども2人の3人だけなので、1人に声をかけるとき、もう1人が蚊帳の外にならないようにも心がけています。

例えば1人の子が持ち物を忘れて、私が忘れた理由を聞いている時。もう1人の子は、一見関係ないけれど、話が耳に入る状況にしておく。1人が経験したことを、もう1人にも共有する。A君がA君だけのことを考えるのではなく、いろんなことを共有して、それぞれに引き出しが増えたらいいなと思っています。

デザイナーにも子どもにもダメを言わない環境

―GM(校長、副校長)にいろいろな提案をしていると聞きました。

以前いた学校では、「こんなことをしたい」と提案したくても、様々な背景を考えて尻込みしたり、管理職の先生方に結局ダメと言われたりすることも多くて。今とは環境が違っていたので、仕方ない部分もあるんですが。

でもゆめの森では、増子GM(副校長)にすぐ話しかけられて、「それやってみなよ」「面白いこと考えるねえ」「やってみればいいじゃん」そんな言葉をポンポンかけてもらえるので、自分の意見を言いやすいです。

―最近提案したことはありますか?

子どもたちの視野を広げるために、「バスを使って双葉町の壁面アートを見せに行きたい」と提案しました。すぐに、「やっていいんじゃない? それなら、アートが何のためにあるのか、聞かせてもらうのもいいんじゃない」とアドバイスをもらって、早速行ってきます。

他にも、私が授業終わりに「楽しい」「やり切った」という顔をしていると、「それは何を目的にした勉強だったの?」「真由香さん、それは何をしてるの?」と、子どもたちに私がするように、問いかけてもらえます。上司から問いかけてもらうことが、私自身の学びの整理につながっていると思います。


(取材後記)取材後、「こうやって話す機会をもらえて、考えの整理ができて良かったです」との言葉がありました。赴任当初は戸惑いがあったという半谷真由香デザイナーですが、現在は新しいチャレンジを続けています。「私がはじまる場所」を自ら体現している姿をみて、これから子どもたちにどんな言葉をかけ、どんな時間を過ごしていくのか、今後も様子を追い続けたい! と感じる時間でした。


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