【日々の記録】干し芋を 喰む音のみや 秋の空
皆さん、こんにちは。
秋の日はつるべ落とし。窓の外に目をやれば、まだ午後2時を過ぎたばかりなのに、すでに日は西に傾き、校庭ではしゃぐ子どもたちの影が長々と伸びています。季節の移ろいの早さに、そこはかとない寂寥感を感じてしまう私は、歳なのでしょうか。窓を開ければひやりとした秋の空気。目を閉じれば遠い昔から、陽に温められた藁苞の匂いが微かに薫ってくるようです。
と、突然「いただきまーす!」
児童たちの元気な声が、私の白昼夢を破ります。
なんだなんだ?早速外に出てみましょう。
昇降口の前で、華やいだ児童の声が響いています。いそいそと靴を履き替え、外に出てみます。「あー、来たー!ねぇ、食べるー?」
児童が何かを手に駆け寄ってきます。「はい。どうぞ。」
渡されたものを眺めると、なんと干し芋です。褐色に程よく萎びて美味しそうです。「ちょっと硬いけど、美味しいよ!」
そう、実は2、3、4年生で干し芋作りに挑戦していたのです。先日の芋煮会後、このnoteですっかりお馴染みの我らが「松永のオヤジ」の指導の元、児童たちが芋を蒸し、皮を剥き、オヤジ発明のスライサーでカットして、1週間以上日向日陰を管理しながら干してきました。毎日忙しなくひっくり返しては、食べごろを待ち望んできました。そして今日いい塩梅になったので、ついに解禁となったのです。
われ先にと、お好みの形の芋をとり、みんな揃って「いただきまーす!」
さて、お味の方はどうでしょう。
「おいしー!」「うんま!」「うまいよ!」
みんなが口を揃えます。「奥歯で噛んでると、どんどん甘くなる!」
お手製干し芋の味にみんな大興奮です。どれどれと私も食べてみましたが、素朴な、鄙びた、懐かしい味わいです。私見ですが、チョコや、キャンディの濃厚な甘さになれた現代人の舌には物足りないものがあるかもしれません。都会の満員電車の中で齧っても、この味の奥深さは味わいきれないでしょう。しかし、作業工程を知り、秋風に吹かれ、みんなの笑顔と共に味わう干し芋は、間違い無く美味しいです。自分たちが作ったとなれば、尚更です。
ねちっこく、歯にからまるような素朴な甘い干し芋を噛み締めていると、次第に人は無心の境地に達するようです。先ほどまで、大騒ぎしていた児童たちも、段に腰を下ろし無心に無言で食べています。秋空の下、辺りにはしばし干し芋の咀嚼音のみ聞こえてきます。飽きちゃったから、ではありません。しみじみと、彼らは季節を全身で味わっているのだと思います。チョコやキャンディのような足し算のような甘みではなく、鄙びた引き算の甘み、素朴な甘みは、感性を研ぎ澄ませる力があるのかもしれません。
ひとしきり、全身で味わったあと、デザイナーが魅力的な提案をします。
「ちょっと湿らして、レンジでチンしたらもっと美味しくなるんじゃない?」
「やるー!!」全員が大きな声で反応します。
早速、各自干し芋を湿らせて、お皿に盛って準備します。言い出しっぺのデザイナーがお皿を手に、レンジに向かいます。さて、どんなお味の変化があったでしょう。
レンジを終え、戻ってきたデザイナーを児童たちが取り囲みます。ホカホカの芋を手に取り早速ガブリ。「あ、柔らか!」「甘くなった!」
レンジによって生じた味変に児童のボルテージは上がります。
ちょっとしたひと手間で、風味も味わいも更に増したようです。柔らかさを私に伝えるために歯形をつけた干し芋を見せつけてくる児童もいます。
「こんなに美味しいの、みんなにもあげようよ。」
慈悲深い児童たちの発案のもと、芋の皿を片手に学校内を巡ります。
「失礼します。僕たちが作りました。食べませんか?」
デザイナーたちも香ばしい匂いと共に現れた児童たちを大歓迎。
「これは、何から作ったでしょう?」
クイズとともに、各机を回ります。「え?バナナかなぁ。」
副校長先生の大ボケに、一斉にツッコミが入ります。「芋やん!!」
帰りの会で、ゆめの森全員にお裾分け。
帰り道、干し芋齧り齧り帰宅する児童たち。夕焼け空、干し芋片手に遠ざかる児童たちのシルエットを見送ります。
自分自身がそのまま童謡の世界に迷い込んでしまったような不思議な気持ちになりました。この感傷は、、ええ、歳のせいではありません。干し芋の味わいが、いつも以上に私を感傷的にさせているのです。
さあ、夕焼け小焼けで 日が暮れて カラスと一緒に帰りましょう。