【取材#02】「幼児教育の都づくり」がはじまる(渡辺滝)
認定こども園と義務教育学校が一体となり、0〜15歳のシームレスな学びを目指す「学び舎 ゆめの森」。認定こども園の渡辺滝マネージャー(副園長)が考えるゆめの森の在り方、デザイナーと共に目指す学びについて、お話をお聞きしました。
※「学び舎ゆめの森」では副園長を「マネージャー」と呼んでいます。
夢は体育教師だったはずが・・・
―もともとは体育教師を目指していたと伺いました。なぜ幼児教育に方向転換したのですか?
幼児教育の世界に入るとは、まったく想像していなかったです。バレーボールバカという感じの、バリバリの体育人。地元の福島へ戻り、体育教師を目指す予定だったんですけど……。
知的障がい児施設のリハビリ訓練棟で働く機会を得て、子どもたちと関わる中で「もっとこの子たちの気持ちに触れたい」って気持ちが強くなって。それで短大に入り直し、幼稚園教諭免許と保育士資格を取りました。
―その後、幼稚園の仕事を選んだのはどうしてですか?
障がいを持った子どもたちを理解するには、まず一般的な発達段階を学ばなければ、と考えて幼稚園に勤めました。そうしたら幼稚園児にハマってしまって……気付けば15年幼稚園にいました。その後、大熊町役場の行政職3年の中で、「学び舎 ゆめの森」の立ち上げに携わらせてもらいました。
集中力を切らさない「遊び倒す」環境づくり
―学校運営や子どもとの関わり合いで、大切にされていることはありますか?
「遊び」が何より大切だと考えています。近年幼児教育の重要性が見直されている中で、やはり「遊び」こそ子どもの中心。子どもは、いつでもどこでも、たとえ何もないところでも遊びをクリエイトする天才です。
東日本大震災の時も、大熊町は全町避難になり、私も避難先で幼稚園児約130名と共に過ごしました。休園していた保育所をお借りして幼稚園を再開したのですが、クレヨンもおもちゃも何もない中でも、次々と遊びを生み出す子どもたちを見て、子どもの生きる力の偉大さに感動してしまって。
―子どもたちと接するデザイナーは、どのような視点を持つべきでしょうか?
子どもがはじめて出会う学び舎として、2つのことを重要視しています。一つは「元気がない子を元気にし、元気に来た子はもっともっと元気にして帰すこと」。もう一つは「今しかできないことが今できる、幸せに満ちた環境をつくること」です。
例えば、幼児期の今しかできないことというと、「あいうえお」が書けることではないんじゃないか。全身を使って泥だらけになって遊ぶこと、砂場で穴を掘って水路を作って遊ぶなら、没頭してのめり込んでいくうちに、砂場の枠を超えて水路が続いていく、といった姿だと思うんです。
「好き」と「なぜ?」から始まる「遊び」と「学び」。
「これを揃えたからこれで遊んで」と大人が言うのではなく、子どもの「これをやってみたい」という気持ちを大事にしています。
―ゆめの森だからできる遊びはありますか?
子どもたちが夢中になれる環境を整えられるところ、時間を確保できるところですね。
砂場で子どもたちが夢中になって遊んでいて、次に予定している保育の時間になってしまったとき。デザイナーが「砂場を続けさせたい」と思うなら、「続けなよ、次の予定の関係者には言っておくから」と声をかけます。「子どもが創ったものを、片付けないで明日も続けさせたい」という時は、「片付けせずに終わらせてみよう」と声をかけています。
遊びへの集中を切ってしまうのはなるべく避けたいなって。もちろん切らざるを得ない場面もありますが、やりたいという声があれば、日をまたいで遊びを続けます。昨日の盛り上がった遊びの余韻や余熱が感じられる環境であれば、登園したらまっしぐらに遊びの続きを始めますからね。
降園後の教室に子どもの創りかけのものが残っているのを見ると、デザイナーと共に子どもが「遊びきる」「遊び倒す」環境がつくれているな、明日どんな様子で登園してくるのだろうとワクワクします。
ゆめの森が考える教育目標
―子どもたちの未来のために養うべき力、理想とする大人像など、教育目標を教えてください。
生涯幼稚園児の基盤を育む中で、「考えたことを自分なりに形にできるデザイン力と我慢強さ(レジリエンス)を持つ」だと思っています。そのために、よくみて、よくきき、よく遊ぶ子どもの姿を具現化していきたいです。
その考えに至ったのは、以前、佐藤CEO(教育長)から不意に「滝(はやせ)さん、30年後を見据えて子どもに身に付けさせたい力って何だい?」と聞かれたのがきっかけで。
その時ハッとして……考え続け、導き出したのが『自分で考えたことを形にできるデザイン力』と、『しなやかなに乗り越える我慢強さ(レジリエンス)』というキーワードでした。
―なぜ「デザイン力」と「我慢強さ」が必要なんでしょうか?
これまでは幼稚園教諭として、「小学校1年生に送り出す」のが仕事だと思っていましたし、それが当たり前だと思っていました。でも、改めて30年後を考えた時、社会は目まぐるしく変化していくだろうな、と。
この厳しい社会の流れの中で、子どもたちが自分で考え、判断・決断して形にできるデザイン力、思い通りにならない時も、折れない心で向き合うしなやかな思考が大事では、と。その上で、すべて自分でなんとかするのではなく、「助けてください」と素直に言える人に育ってくれたら素敵だと思います。
0~15歳の子どもとデザイナーが混ざり合う場所
―「学び舎 ゆめの森」が掲げるシームレスな学びの魅力を教えてください。
小さい子も大きい子も、年齢の垣根無く自然と混ざり合うのが本来の子ども像なんじゃないか、そういう光景が自然な学校の姿だと考えています。子ども同士はもともとそういう力を持っているのですが、その前に我々大人たちが混ざり合うべきだと思って、取り組みをはじめています。
新校舎が完成すると、認定こども園のデザイナーと義務教育課程のデザイナーが同じ空間を共有するので、より近い関係になります。お互い保育のプロ、教科のプロとしてデザイナー同士が刺激し合い、相乗効果が生まれることに期待しています。
子どもも大人も育つ「学び舎 ゆめの森」
―「学び舎ゆめの森」が今後目指す未来やゴールはありますか?
子どもたちにとって「学び舎 ゆめの森」からの巣立ちがゴールなのではなく、ゆめの森で培った「自分力」を操作して、その先々で、一人ひとりそれぞれのタイミングで、大輪の花を咲かせることがゴールだと考えています。
―「学び舎ゆめの森」が求めるデザイナー像を教えてください。
変化を恐れない人材、チャレンジできる人材ですね。がっちり決められた中で「これをやっていればいい」という保育ではなく、「ここから何ができるか」と考え、変化していける人。
子どもの育ちを第一に、失敗を恐れず「遊び心」をもてる人と出会いたいです。
子どもの遊びって本当に面白いんです。例えば、ブロックを渡してもブロックとしてだけでは遊ばず、大人は考えつかない発想で、遊びをどんどん広げていきます。
子どもたちと一緒に、おもしろいことを本気でおもしろがって「保育」を遊び倒せるデザイナーが、たくさん誕生したら良いなと思います。
―さいごに、大熊町への移住を検討している方、デザイナーを目指す方へメッセージをお願いします。
0〜15歳の子どもたち一人一人の成長をシームレスに見守ることのできる環境が、ようやく整いました。ゆめの森の新校舎で、デザイナーと子どもたちが繰り広げる「遊び」をぜひ見にきてください。
大熊町から日本の幼児教育をリードする「幼児教育の都(みやこ)づくり」のスタートです。
子どもの遊びを大切にし、子どもと共に大きく育つ「学び舎 ゆめの森」のデザイナーに、チャレンジしてみませんか?
(取材後記)新校舎の完成を間近に控え、希望に満ちた表情を浮かべる渡辺マネージャー。
工事中の校舎へ足を踏み入れた際、「ここで子どもたちがこんな風に遊んでるのが見えるでしょ」「この空間は子どもたちがこんな風に使えるかも」と、子どものように動き回りながらイメージを膨らませていました。
いつでも子ども目線、デザイナー目線でいることを大切にする、渡辺マネージャーとともに始まった“遊び倒す”教育。子どもたちが将来どんな花を咲かせるのか、未来を想像して、ワクワクした気持ちになりました。