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【日々の記録】上天に 穴穿つごと 球の飛ぶ

皆さん、こんにちは。
いよいよ朝夕にと体がチリチリするような本格的な冬がやってきました。ドアを開ければ容赦なく寒風が吹き込んできます。「さぶっ!」と黄色い声をあげるのは大人ばかりで、かたや子どもたちはぐんぐん風の中を闊歩していきます。
さて、本日のゆめの森。どんな物語が紡がれたのでしょうか。
ネイチャーラボにくまっこカフェ、掛け算クリアなど紹介したい物語は数多くあるけれど、本日は3〜6年生による「クラブ活動」を中心に見ていきましょう。

野球のルールって、超むずい!

皆さんの小学校時代「クラブ活動」はありましたか?どんな活動をなさっていましたか?私は一般的な大規模校出身でしたので、多くのクラブが存在しました。女子に人気の「料理クラブ」。男子に人気の「野球クラブ」。「イラストクラブ」なんかも人気があったなあと懐かしく思い出されます。
義務教育学校ゆめの森は24名の小規模校。クラブは定期的に毎回みんなで一つのものに取り組んでいます。今日の活動は、「野球」です。

元球児の説明を聞く。

話は昨日に遡ります。帰りの会でデザイナーからの告知がありました。
「明日は、クラブ活動があります。何をするかというと、、野球です!」
「え〜。」一部児童から遠慮なくブーイングが上がりました。
「巨人、大鵬、玉子焼き」そんな時代から幾星霜。少なくとも私の時代でもガキ大将中心に近所の馴染みの顔が揃えば、神社の境内で棒っ切をバットの代わりにカラーボールで野球に興じたものです。大人たちもビールの大瓶を傍らに野球観戦におだをあげ、贔屓のチームの勝敗に一喜一憂したものでした。お茶の間の中に野球があったと言っても、言い過ぎではないでしょう。・・それが、「えー」か・・。
隔世の感。時代の移ろいをそこはかとなく感じた一瞬でした。

5時間目。広いグラウンドに児童たちが駆けていきます。昨日ブーイングをしていた児童も、喉元過ぎればなんとやら、目の前のグラウンドに本能的に駆け出していきます。
「はーい。ルールを説明します。」
元球児のデザイナーがホクホクと顔をほころばせ話しています。
隔世の感と上でも書きましたが、野球をしたことない児童、ルールも知らない児童が多くいます。そんな彼らにとって、野球はルールが難しく取っ付きにくいイメージがあるようです。今日はルールを簡略化した形でゲームすることになりました。

よろしくお願いします。礼に始まり礼に終わる。

「プレーボール!」青空に元球児の威勢の良い声が響きます。やんややんやの大人たち。初めてバッターボックスに立つ児童。バットの構えが危なっかしく、思わずお節介を焼きたくもなります。しかし、ゴルフ練習場などでやたらと指導したがるおじさんを「教え魔」など揶揄する昨今です。ここは「忍」の一文字です。

元球児の情熱が放たれる!

変わらずホクホク顔の元球児から、鋭い白球が放たれます。児童が力一杯振るったバットは虚しく空をきり、ミットから快い音が響きます。と同時に勢い余った児童が回転しながらもんどり打って倒れます。
「ストライク!」
大人のやんややんやのボルテージが更に上がります。
次の打者は、ゴロを打ったものの、一塁に走ることなくボールの行方を固唾を飲んで見守っています。あえなくアウト!
中にはバットをつかんだまま走り出したり、ボールを打つのではなく、スイカ割の要領で上から下に叩きつけるスイングをする児童もいます。
・・・他意なく滑稽調に書きましたが、野球経験がない子どもたちは、3アウトもファウルも1塁、2塁も分からないのは当然です。バットの振り方がおぼつかず、尻もちつくのも真剣さの証拠です。

え?バットって両手で持つの?
力一杯振り下ろす!
え?一塁ってどっち?
なんか知らんけど、やったるわ!

それでもゲームは一進一退が続き、遂に最終回の表。ゴロの捕球に手間取ってなんと同点です。そこから迎えた最終回裏。一打さよなら勝ちのチャンスです。
ここでバッターボックスは6年生。ここゆめの森においては、唯一の野球経験者です。みんなの期待も自ずと高まります。
イケイケ!かっ飛ばせ!最終回を迎え、応援もそれらしくなってきました。
「緊張するな。」赤い顔して、打席に立ちます。
鋭い選球眼で数球を見送った後、元球児が放った甘めの球を見逃しませんでした。バットの中心で軟球をとらえます。
「おおおおおお!」
ボールは大空に穴を開けんとするが如く飛んでいき、ゆっくりと軌跡を描いて2塁の向こうに落ちました。
「やったーーーーー!」サヨナラ勝ちです。
勝敗を決した打者を、歓声とハイタッチで迎えます。打者はニコリともしませんが、それが彼の美学なのでしょう。
まるでシナリオに書いたような試合でした。もちろん多少は大人の手加減はありましたが、こんなにも拮抗した好試合になるとは驚きです。
最後、整列した俄球児たちは、ぺこりと頭を下げ、互いの健闘を讃えあったのでした。

今日のスター!笑わんのは俺の美学や!
「憧れ」に「憧れる」こそ、学びなり。

「食わず嫌い」という言葉があります。野球に対し、ブーイングをしていた子どもたちも最後はニコニコと「楽しかった!!」
学ぶことにもちろん強制はできません。しかし、やりたくないこと、興味のないことから逃げ続けても新しい発見は得ることはできないと、みなさまは経験の中でご存知でしょう。
とりあえずやってみる。やってみてから判断する。
野球を終えて、笑顔で帰っていく表情に、「やってみる」ことの重要さを改めて感じました。私たちにできることは、「やってみたい」と思わせる演出です。
ホクホク顔で誰よりも野球を楽しんでいた、若き爽やかな元球児の笑顔に、その
演出のヒントが隠されているようです。
紐解けば・・
デザイナーの「好きの情熱」こそが児童たちの「好き」を揺り動かします。「憧れに憧れる関係」。明治大学教授齋藤孝が著書の中で説いた理想とした学びの関係を、元球児と児童たちに見せてもらいました。
子どもたちの「好き」を分析する以前に、私たち自身の「好き」をまず探究すること、ここに手掛かりがありそうです。