【取材#06】「難しい」より「おもしろい」の方が勝つ(新妻一輝)
認定こども園と義務教育学校が一体となり、0〜15歳のシームレスな学びを目指す「学び舎 ゆめの森」。今回は、2022年4月からゆめの森に着任し、ゆめの森の理念と向き合い現場でチャレンジを続けてきた新妻一輝デザイナーに、ここまでのプロセスや想いを聞きました。
※「学び舎 ゆめの森」では義務教育課程の教師を「デザイナー」と呼んでいます。
特別支援学級で自分の視野を広げたい
―特別支援担当の新妻デザイナーですが、以前から支援級の先生だったのですか?
いわきや郡山で通常学級の講師を勤めた後、社会人4年目でゆめの森に来ました。
ゆめの森の校内人事で「特別支援の担当はどう?」と打診があって。もともとやってみたい分野だったので、「ぜひお願いします!」と答えました。
どこの学校にも、通常学級の中で居心地の悪さや居場所のなさを感じている子どもたちがいますが、そういった子たちへの理解を深めたい、視野を広げたい、と思っていたので希望どおりでした。今は特別支援担当をメインに、週1で外国語、週2で体育も教えています。
プロセスを工夫して、やり方を変えていく
―デザイナーとして、大切にしていることはありますか?
児童生徒一人ひとりのペースに合わせた指導を大切にしています。
通常の学校では、学習の計画を立ててそれを実行できるかが重視されますが、それだと子どもの実態に合わないことも多くて。ゆめの森でも計画は立てますが、子どもの様子をよく見て臨機応変に対応を変え、その時その時ベストだと思われる方法を探っていきます。
実際、子どもに寄り添った教育を実践できるので、授業が終わったときの子どもたちの顔が良い意味で違うな、と感じています。
―臨機応変に対応を変えるとは、たとえばどんなことですか。
特別な支援が必要な子どもを担当した時。算数のテストがあったんです。
私としては、一人で静かな空間の方が集中できるだろうと、環境を整えました。でも、実際は10分経っても、20分経ってもペンが動かなくて。
なんでだろう? と観察していたら、その日は雨が降っていて。その子は雨が好きなんです。だから雨が見たくて集中できないと。「じゃあ、雨を見ながらテストしようか。」と、雨が見られる屋外に机を移動したら、ちゃんとペンが動いて、終わった後にいい顔をしてました。
―テストを教室の外で、という発想が面白いですね。
テストの時は静かに机に向かう、という一般常識は、将来的に必要なこと。だけど、それを身につけるのは、おいおいでいい。その子に合わせて、スモールステップを踏んでいく過程で、徐々にその子の力がついていく気がしています。
この日の一歩は、まず自分で何問か解いてみること。実際に自分の力でテストに取り組めたから、達成感を得られたかなって。テストで問題を解くという結果だけじゃなく、プロセスを工夫して、やり方を変えていける。「難しい」と思う部分もありますが、「おもしろい」の方が勝っているかなっていうのはありますね。
さまざまな特性が混ざり合うインクルーシブな教育
―ゆめの森が開校して3ヶ月、学校の様子を教えてください
ゆめの森は、多様性を包括する「インクルーシブ」な教育を目指しています。通常の大きな学校だと、やっぱりどうしても特別支援学級と通常学級の間に隔たりがあるというか、やっぱり距離がある。それが常ではないにしても、自分の今まで見てきた印象でいうと、どうしてもあるかなって。
でもゆめの森では、それを全く感じなくて。今担当している特別支援の子は、どんどんその子だけの単独行動の時間が減ってきているんです。通常学級の子と一緒に係活動をやっていたりだとか、どんどんその子の表情も表情も明るくなってきて。周りの子たちも、その子と関わる上で笑顔が増えているなーっていうのが見受けられて。
通常学級の子が特別支援の子のスペースにどんどん入ってきて、「折り紙おったからあげる。」とか「今何してるの」とか、気軽に声をかけています。
少し前に学習旅行へ行ったんですが、特別支援の子も笑顔で帰ってこられて。デザイナーとして、成長する瞬間に対面できた喜びも大きかったです。
―デザイナーが、子どもたちが混ざり合うような働きかけ、工夫をしているんでしょうか。
少し工夫は用いる部分はありますが、それを抜きにしても今のゆめの森の子どもたちは勝手に混ざり合ってるので、本当にびっくりしてるんです。休み時間とかすごいニコニコしながら、どの学年も混ざって鬼ごっこやっていたり。ああしなさい、こうしなさい、と言わなくても、混ざり合う力を子どもたちはもともと持っているんだな、と。私が知らないうちにどんどん成長していってるんだな、と思います。
子どもの葛藤している顔を、よく見ること
―子どもたちとの関わりで大事にしていることはありますか?
子どもの頑張りを認めることです。大人の思う頑張りと、子供の思う頑張りって、違うと思っています。大人目線では、「もうちょっと頑張れるんじゃない?」と思っても、子ども自身は、もうその時点で精一杯頑張っている可能性が高い。この頑張りをいったんちゃんと認めて、担保するのが重要だと思います。
私の中の変化として感じていることですが、子どもの葛藤している顔を、よく見るようになったんです。
たとえば特別支援の子が、教室にいなきゃいけないとわかっている、だけどいられないから教室から出ていきたい、という時。その葛藤している顔をちゃんと見取りたいなと。教室を出ていったとして、その結果だけをみて「いや、抜けないでよ」っていうんじゃなくて。
葛藤していること自体が、もう頑張っているわけですから。
その葛藤している表情に遭遇したところから、では私はどうすれば出ていく方向を選択するのではなく、その場で居続ける方向を選択させられるのか、その支援の方法を見つけよう、と思うようになりました。
今の頑張りをちゃんと認める。その上で、もう一歩頑張ってみたら、という声かけをしていけたらな、と思っています。
(取材後記)結果よりもプロセスを大切に、ゆめの森の理念を実践している新妻デザイナー。実践の中で得た実感、ご自身のやりたい教育への思いを、力強く、率直に伝えてくださいました。