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【日々の記録】「世界平和」への糸口

皆さん、こんにちは。

降る雪や 明治は遠くに なりにけり

中村草田男 句集「長子」より

有名なこの句をどこかで耳にした方も多いと思います。
何だか句の調子から、老境の作者が郷愁にかられて詠んだものと思っておりましたが、なんと中村草田男31歳の時の作品です。
ちょっと興味を持って調べてみますと、昭和6年、草田男が雪の降るなか青山の母校を訪れた際、下校する子供達の姿に着想をえて詠まれたものだそう。

裏門から走り出してきたのは金ボタンの外套(がいとう)を着た児童たちであった。作者の幻想の中では、黒絣(くろがすり)の着物を着、高下駄をはき、黄色い草履袋をぶら下げた明治末期の小学生でなくてはならなかったのに。

「悠久の名詩選」より

この句に刺激されここで私も、一句。
電波あり 世界は近く なりにけり

間違いなく愚作ではありますが、なぜ中村草田男までご登場願って、冒頭こんな愚作を書き付けたかと申しますと・・。

本日、ゆめの森で「ミーツ・ザ・ワールド」が開催されました。ここゆめの森ではすでに何回も実施されているプログラムです。
この「ミーツ・ザ・ワールド」を簡単に説明すると、対面、またはZOOMなどを使い世界中のいろんな国々の方達と出会い、友達になろう、というプログラムです。
語学学習は目的にはしておりません。ただ、世界中の人々と出会い、お互いの町のこと、生活の様子や、夢などについておしゃべりしようという企画です。
このプログラムを提供してくださっているのはin the Rye(イン ザ ライ)株式会社の沖野昇平代表、通称おっきーさんです。
おっきーさんは言います。
「世界にはいまだに戦争や紛争がなくなりませんよね。でも、自分の友達が住んでいる国と戦争したいと思いますか?思わないでしょ?つまり、世界中に友達ができたら、世界平和は実現すると思うんですよ。」
とても難しい問題を、おっきーさんはにこやかに平易な言葉でさらりと語ります。
根拠なく理想論をぶち上げる青二才ではありません。その哲学は自身の豊富なボランティア体験と、大学院で研究した教育心理学に裏打ちされた確かなものです。

三つの国から三人のゲスト

輸送技術の目覚ましい進歩で世界は格段に狭くなりました。さらに近年のICT化や、ソーシャルメディアの隆盛によって世界はますます狭くなっています。
この流れは今度ますます加速していくことは疑いようもありません。
しかし、胸に手を当て考えてみてください。
肌感覚として世界は本当に身近になったと言えるのだろうか・・。
どこかの戦争や災害も所詮テレビやネットの中だけの虚構に近い他人事と思ってはいまいか・・。
私は、残念ながら「世界は身近である。」と断言する勇気をまだ持ちません。

おっきーさんは言います。
「人との繋がりが少ないと自己肯定感も高まりにくいですよね。だから、子供達に普段出会う機会の少ないたくさんの国々の方に会って、そこで自由に話してほしいんです。他愛も無いことでもいいんですよ。共通の話題で笑い合う、それでいいんです。自分や、自分の町が世界の人に認められ、自分が世界に通用する、そんな小さな成功体験をたくさん積んで欲しいんです。
小さな好奇心から始まった『おしゃべり』が個人・世界・社会を巻き込んで、自己肯定感の低さ、地域の衰退、世界の分断を超える。そんな社会がデザインできたら素敵じゃないですか。」

謝謝(シェイシェイ)!華麗に決める中国語。

2時間目、児童たちのipadからZOOMを通して世界への窓が開かれます。
本日「ミーツ・ザ・ワールド」にご参加いただいたのは、中国からボクさん。フランスからクレモンさん、ザンビアからマサウソさんの三名です。
「こんにちはー!あっ!写ってる!」
児童たちはまずZOOMに自身が参加していることに大喜び。
おっきーさんがファシリテーションを務めます。
「さあ、みんな、三人のゲストの国の言葉で『こんにちは』を言ってみましょう。まず、ボクさーん、中国語で『こんにちは』は何ですかー」
こんな様子で始まった「ミーツ・ザ・ワールド」。
難しいルールはありません。ただ一つ「人の嫌がることは言わない」。それだけです。
ゲストの自己紹介の後は、児童たちは自分の興味のある国に分かれて、いよいよ「おしゃべり」です。
「好きな食べ物は?」「どんな動物がいますか?」「きれいな場所はどこですか?」「お仕事は?」
思いつくままに児童たちの質問攻撃が始まります。
ゲストたちは嫌な顔一つせず、全ての質問ににこやかに答えてくれます。
アフリカのザンビアから来たマサウソさんの部屋をのぞいてみます。
話題は「ワニ肉のハンバーガー」で盛り上がっています。ちなみにマサウソさんの好きな日本食は「焼きそば」。またザンビアでは蝶の幼虫もご馳走の一つなのだとか。どの子も歓声を上げて大喜びです。
一人の児童が自分について話します。
「私の夢はねぇ・・。お医者さん!」
それを受けてマサウソさんが、
「すばらしいねぇ。私はサカナのお医者さん。」
聞けばマサウソさんは現在北海道大学水産科学院で研究されているとのこと。
「えーーー!超かっこいい!!」
児童たちは大盛り上がりです。
「あたし達の、修学旅行はザンビアに行きたいね!あたし、校長先生にいう!」
児童の発言に今度はマサウソさんが手を叩いて大喜びです。
「めっちゃうれしいねー。」とマサウソさん。
互いに「めっちゃ」いい顔で再会を約束し、ZOOMを閉じたのでした。

ザンビアってどこ?からの、ザンビア大好き!

中国、フランス、ザンビア。どのグループも存分におしゃべりできたようで、授業後どの児童たちの顔も興奮で紅潮しています。
そんな様子を眺めつつ、ふと視線を横にやると。これまたおっきーさんが柔和な表情で彼らの後ろ姿を見守ります。
「リコモ!」「違うよ。ジャコモ!」「ううん。ド・コ・モ!」
ザンビア語で「ありがとう」その発音について児童たちが盛んに議論しています。

電波あり 世界は近くに なりにけり・・・・・。
私の子供時代、当時地元でもよく見かけるようになった外国人労働者。
「あ、外人がいる!」
決して悪意はなかったけれど、やっぱり珍しくてじっと見てしまった経験があります。多分仕事帰りでしょう。瓶ビールの大瓶をラッパ飲みしながら農道を闊歩する彼らに、興味と同時にどこか近づき難い微かな恐怖を感じたのも事実です。
あの時、私に一言「こんにちは」と声かける勇気があったのなら、彼の国はもっと近くにあったはずです。

ZOOMを操り、易々と当時の私を乗り越えていく児童たち。
「もっとやりたい!」「今度はバチカンの人と話してみたい!」
「ミーツ・ザ・ワールド」。まさに「世界と出会う」体験は、児童たちに確かな自信と「世界平和」への小さな糸口を与えてくてたようです。


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