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【日々の記録】「能力」を見出す能力

皆さん、こんにちは。
職場などで「適材適所」という言葉をよく耳にしますね。念の為、小学館の辞書で意味を確認すると、「その人の能力に相応しい地位、仕事に就かせること」と説明されています。語源は字の通り伝統的な建築現場における木材の使い分けからきました。  家屋を形成する木材をどう配置すると最適か考え、木の性質にあわせて作りあげることを「適材適所」と表現したものが、次第に人事についても用いるようになったようです。
この「適材適所」という言葉を聞くと、思い出してしまうエピソードがあります。
本日もまた少々年寄りの繰り言にお付き合いくださいませ。
落語のネタに「孝行糖」という話があります。滅多に利用しないタクシーの車内のラジオでこの話に出会いました。慣れないタクシー、車内はドライバーさんと二人きり。タクシーなどいかにも乗り慣れているといった雰囲気を装い、私はスカした態度で車内にいましたが、内心やや緊張気味です。沈黙に耐えかねて、老ドライバーはラジオをつける・・。今は亡き三遊亭金馬の名演が流れてきます。
途中私は、笑いを堪えるのに必死になっていましたが、ついに吹き出してしまい、けれど、それを契機にドライバーとの話に花が咲く・・こともなく、空咳で誤魔化した。たったそれだけのお話です。
その「孝行糖」について簡単に説明すると、孝行者のある男が、親孝行を認められ奉行所よりご褒美を頂戴します。そのご褒美を資本に飴屋をやらせようとお節介を焼く長屋の店子と大家の様子。実際に商売を始めた孝行息子の顛末が話されます。金馬の名演で、市中を練り歩く様々な商売の売り声が再現され、江戸の活気の中に身を置いたような素晴らしいお話となっています。以下、長屋の大家とお節介焼きな店子の会話の一部です。

店子:大家さん、いけませんや。世の中に生まれた人間で使えねってのは一人もいないそうですよ。そら、使う方がわりいからでねぇ。あっしゃ自慢じゃありやせんがね、そりゃ人を使うんはうまいと評判なんで。ええ、どんな人間でも使いこなしますよ。適材適所ってんで。・・こないだね、中気でね、涎垂らして、がたがた震えた野郎がいたんです。どこ行ってもね、おまいさんじゃダメだってんで、あっしんどこきたんす。ですからね、(私が)おまいさんこっちおいでってんで、裏のね、あのう、原っぱの普請場連れてきやしてね・・
大家:どうしたい?
店子:へえ、砂ぁ振らせやした。

三遊亭金馬演「孝行糖」より

これは話のメインではなく、店子自身が適材適所人事の妙を語った一部です。ポリティカルコレクトネス喧しこの現代で、軽々にこんな話をしたらお叱りを受けそうですが、当時の空気を知る資料として、金馬の江戸弁と共に無形文化財の価値はありそうです。

下絵が描けたら、穴にリベットを差し込んで・・。

さて本日は、学び舎ゆめの森に福島県立テクノアカデミーさんが特別講師として来てくださいました。3時間目。児童たちが創作工房にやってきます。
「え?なにやんの?テクノ?テクノロジー?難しそう・・。」
児童生徒の正直は美点ですが、相変わらず心の声がダダ漏れです。
我がゆめの森のマルチタレント小澤マネージャーが、金属片を取り出します。
「さて、これはなんでしょうか?」
児童たち手にとって考えています。
「鉄?・・だって銀色だし・・。」と3年生。
上級生は手にとって即答します。
「アルミニウム!」
「どうしてそう思った?」と小澤マネージャーが問えば、
「なんか軽いし・・。」そう、正解です。アルミニウムは反射性に優れ、銀のようにピカピカしていますが、「軽銀」とも呼ばれるように重さは鉄の3分の1程度です。アルミは軽い。生徒の経験値にはこのことがしっかりインプットされていたようです。「アルミは軽い」という話題から、車に話は飛躍します。
「ホンダのNSXって車があってさあ、アルミでできていてね、これが軽いんだよ!」小澤マネジャーがいいます。
「あ、知ってる。三菱GTOとか!」車好きの児童の目が輝きます。
「おお、そんな古い車、よく知ってんなぁ。」・・他愛ない与太話のようですが、車好きの6年生をスムースに授業に引き込むマネージャーの手管です。
「ま、俺はGTRが好きだけどね。」と児童。
「あ、そうなの?そんでね、その軽いホンダのNSXにね、小錦乗っけても、他の車より軽いのよ。俺びっくりしちゃって。」・・・導入は大成功の小澤マネージャー。意気揚々と先を続けましたが、少々蛇足だったようです。小錦のあたりからは児童の顔に「?」が点ります。そこも含め私は面白く笑ってしまいまいます。
今日はこのアルミニウム版にリベットを自由に打ち込んでオリジナルプレートを作ろうというのが目的です。アルミ版に細かい穴を開けたオリジナルキットをテクノアカデミーさんが作って持って来てくださいました。

たくましく、爽やかな小泉さん。

「皆さん、こんにちは。テクノアカデミーの小泉です。よろしくお願いいたします。」ガタイよく、爽やかな小泉さんがにこやかに挨拶してくれます。
早速アルミ版を手に取り、空いている穴に自由にリベットを差し込んでいきます。
「名前がいいかな・・・。」「誕生日もいいねえ。」「ハート作ってみよっかな。」思い思いにデザインしていきます。みんなが思案している中、ゆめの森工芸家はさすが仕事が早いです。テキパキ仕事を進め「できた〜。」ほんわか宣言します。車に夢中の児童は、やはりオリジナル車プレート作成中です。あれれ、目がいつもと違います。まさに大好きな車の部品をいじっているように目がマジになっています。
「いいぞ・・。」小澤マネージャーの心のガッツポーズが見えるようで、私までホクホクします。

テキパキこまこま手は動き、あっという間に準備終了!
脇目も振らず、無駄口聞かず、車のプレートを製作中。

穴にリベットを差し込み終わった後は、エアーリベッター(空気圧力を利用してリベット打ち込む機械)で止めていきます。この機械安全とのことですが、見た目が物々しく時にプシュッと大きな音を立てるので、怯える児童もいます。
「こわい〜。」先ほどのゆめの森工芸家もか細い声を出しながら、しかし手元は的確に打ち込んでいきます。どの児童も、重い機械を小泉さんの指導のもと辿々しくも丁寧に打ち込んでいきます。どの目も真剣そのものです。いつもは陽気なおしゃべり屋も、エアーリベッターを手にした途端、口を結んでリベット一点一点に全集中です。それもまた新鮮で、思わず笑みがこぼれます。
先ほどの車好きの児童です。プレートデザインが完成し、いざ機械と対峙します。一点め。慎重に狙いを定め、すっと息を止め、トリガーを引きます。プシュ!
ん、先程からの目つき同様、体から発せられる雰囲気がいつもと違います。
プシュ。プシュ。プシュ。
彼の手捌きに辿々しさがありません。鋭く目を凝らし、一つも仕損じることなく次々リベットを止めていきます。
「おおおおお!」「すげー!」「あ!上手じゃん!」周囲から声が上がります。「うん、手際がいいね。」プロの小泉さんも、茶化すでなくさらりと褒めます。一方、当人は人の批評に顔色変えず、ただひたすらにテンポよくリベットを打ち込んでいます。
熟練の職人のようだ・・・。
子供相手のおべっかじゃありません。真摯な眼差し、手際の良さ、周囲に漂う空気。どれをとってもプロ裸足です。
「そっか。彼にはこんな魅力があったんだ・・。」私は静かな感動に襲われます。「彼は、、すごい・・。すごいよ・・。」今まで、彼をこんなにも心から感心したことがあっただろうか。寡聞な私は、彼のこの目の輝き、手際の良さ、真摯なオーラに初めて出会った気がします。
・・ごめんね。今まであなたのその才能を発揮させてあげられなくて、ごめんね。感動と共に、自身の不甲斐なさを痛感します。

国語や算数で輝かなくてもいい。体育ができなくともいい。歌が下手でもいい。それでも人には必ずこれぞという能力があります。その能力に自分で気付けるのか、そしてそれを磨き、強みにできるのか・・。力を発揮するためには自身の努力こそ重要である。そう強く信じてきました。しかし今思います。能力に気付き自身で研鑽することと同等に、周囲がその能力を発掘し、発揮させることも重要だ。いや、周囲がその能力にあった環境を按配することの方がこの社会では大切なのではないか・・。まさに適材適所。
使うサイドには、使われる人以上に見出す力が求められるのです。

この状態から、リベッターでリベットを打ち込んでいく。

材料アルミの話に戻りますが、アルミニウムの歴史はさほど古くありません。イギリスの科学者デービーに見出され、工業化されてまだ130年ほど。アルミニウムの特性、軽く、加工しやすい点を生かし瞬く間に世界を席巻しました。中でも軽さの利点は大きく輸送用機材(航空機、鉄道、船舶など)に多く活用されています。アルミを見つけ、それを活用したのは、人間。当然アルミ自身が自らを鍛錬し、営業かけたわけではありません。これも適材適所です。
しかし、純度の高いアルミには傷つきやすい弱点もあります。この弱点を克服するために他の金属と混ぜ合金にするのだそう。
ここも、人間のようです。弱点があれば他と協力協働することで補合えばいい。相性のいい材料を選び、混ぜ合わせるのも、これもまた、適材適所の一つの形です。
わたしを大事に あなたを大事に ともに未来を紡ぎ出す。
ゆめの森デザイナーには、木の特性を的確に見抜き上手に按配した宮大工の匠の技が必要不可欠のようです。 

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